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鳥取家庭裁判所 昭和50年(家)37号 審判

申立人 平河良江(仮名)

相手方 平河康則(仮名)

主文

相手方は申立人に対し、婚姻費用分担金として、三三万七、五二三円をこの審判確定後即時に、また昭和五〇年一一月以降三万六、三〇六円を毎月末日限り支払え。

理由

一  申立人は申立の趣旨として、「相手方は申立人に対し婚姻費用の分担金として毎月相当額を支払え。」との審判を求め、その実情として、申立人と相手方とは昭和四〇年八月一三日婚姻し、二人の間に長男正夫(昭和四七年一月五日生)と二男健(昭和四八年九月一七日生)を儲けたが、相手方は飲食店の女と関係を生じ同棲状態となつて帰宅しないばかりか生活費を出さないので本申立に及んだと述べた。

二  審按するに、本件記録添付の戸籍謄本、当裁判所昭和四九年(家イ)第三〇一号離婚等事件記録、家庭裁判所調査官村尾洋一郎の調査報告書によれば、次の事実が認められる。

(1)  申立人は相手方と昭和四〇年八月一三日婚姻し、同日婚姻届出を了し、相手方との間に昭和四七年一月五日長男正夫を、昭和四八年九月一七日二男健をそれぞれ儲けた。

(2)  申立人と相手方は結婚当初△△市に住み相手方は自動車運転手をしていたが、昭和四五年頃夫婦で○○県に引揚げ申立人の肩書住所である相手方の祖母平河ちよ方に同居し、昭和四六年二月一日夫婦そろつて同人の養子となり、相手方は最初××バスの運転手をしていたが、現在は○○運送店の運転手をしている。

(3)  相手方は昭和四八年頃から以前同棲したことのある市川陽子と再び関係が生じ同人方に同棲し、月に一、二回帰宅するのみであつたが、現在は相手方は同人方にも居らず、月一回位申立人のところに帰宅するのみでその居所は不明である。

(4)  申立人は養母ちよ所有の家に同人と子供二人とともに居住し、養母の小作する水田一反三畝位と養母自作の畑若干の耕作をし、米と野菜を自家生産で賄つているほか、養母が受けている老令福祉年金(昭和五〇年九月まで毎月七、五〇〇円、同年一〇月以降毎月一万二、〇〇〇円)と時々の相手方の実母石原千恵子、同人の妹、申立人の妹の援助によつて生活している。

相手方は○○運送店の運転手をして毎月七万円の収入があるが、昭和五〇年においては申立人に生活費として同年六月頃と九月頃にそれぞれ二万円を手交したのみである。

三  以上の事実にもとづき本件婚姻費用の分担について判断する。

夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する義務を負うものであるから(民法七六〇条)、いまだ離婚に至らない本件当事者間においては互に婚姻費用の分担をしなければならないことはいうまでもない。

そこで婚姻費用の分担額について検討するに、(1)相手方の収入は前記のとおり一か月七万円であり、申立人方の収入は(イ)前記のとおり養母の受ける老令福祉年金が昭和五〇年九月までは毎月七、五〇〇円、同年一〇月以降は毎月一万二、〇〇〇円であり、(ロ)前記調査官の調査報告書によれば、申立人方の自家生産米を換算(換算方法は別紙1のとおり)した収入が一か月五、一四四円、自家生産野菜を換算(換算方法は別紙2のとおり)した収入が一か月七、二〇〇円であつて、これを合計すると昭和五〇年九月までの一か月の収入は一万九、八四四円、同年一〇月以降のそれは二万四、三四四円となる。申立人は前記のとおりそのほかに相手方の実母、その妹、申立人の妹から時々生活費の援助を受けているが、それは不定期のものであり、かつその性質からいつて申立人方の収入としてみるべきものではないからこれはその収入に加えない。(2)次に生活費の計算上比較的に多く用いられている労研方式によると、相手方(夫)の消費単位は中等作業とみて一〇五、これに独立世帯加算二〇を加えると相手方の消費単位は一二五となり、申立人(妻)の消費単位は八〇、長男正夫(三歳)、二男健(二歳)の消費単位はそれぞれ四〇、養母ちよ(八六歳)のそれは六五で、結局申立人方の消費単位は二二五となり、申立人と相手方の消費単位の合計は三五〇となる。(3)そこで(1)の相手方、申立人方双方の収入を基にして(2)の消費単位を使用して相手方の分担額を算出すると、次のとおりである。

すなわちその算出方法を式で表わすと、

×(夫の分担額) = (夫の収入+妻の収入)×(妻と子と養母の消費単位/夫と妻と子と養母の消費単位)-妻の収入

であるから、結局

昭和五〇年九月までは

相手方の分担額 = (70,000円+19,844円)×(225/350)-19,844円 = 37,913円

昭和五〇年一〇月以降は

相手方の分担額 = (70,000円+24,344円)×(225/350)-24,344円 = 36,306円

となる。

従つて相手方は申立人に対し婚姻費用分担金として、本申立のあつた昭和五〇年一月から同年九月までは毎月三万七、九一三円を、同年一〇月以降は三万六、三〇六円を支払う義務がある。ところですでに履行期の到来した昭和五〇年一月分から同年一〇月分までのものは合計三七万七、五二三円となるところ、申立人は相手方から同年六月と九月に合計四万円の支払を受けているので、相手方は申立人に対しこれを控除した残金三三万七、五二三円をこの審判確定後即時に、また昭和五〇年一一月以降は毎月三万六、三〇六円を毎月末日限り支払うべきである。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 岡本元夫)

別紙一

自家産米換算の算出法(昭和四九年一二月現在鳥取市農協調査)

(1) 反収八俵として 一反三畝で一〇・四俵 内小作料二・四俵

年間自家消費米 10.4俵-2.4俵 = 8俵

一俵当り売渡価格(三等米) 一万五、六一六円

八俵当り売渡価格(三等米) 1万5,616円×8 = 12万4,928円

(2) 反当経費 八万五、八一一円 内反当労賃 三万七、二〇〇円

労賃を除いた反当経費 8万5,811円-3万7,200円 = 4万8,611円

一反三畝歩の反当経費(労賃を除く) 4万8,611円×1.3 = 6万3,194円

(3) 米作による年間収入 12万4,928円-6万3,194円 = 6万1,734円

米作による月間収入 6万1,734円÷12 = 5,144円

別紙二

生活保護基準表の野菜換算表による算出

四級地 昭和五〇年四月一日適用分

申立人 三七歳 二、一六〇円

養母  八六歳 二、〇〇〇円

長男   三歳 一、七四〇円

二男   二歳 一、三〇〇円

計       七、二〇〇円

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